行方の行方

このサイトは盧 興錫による『風景の行方、作品の行方』http://rofungsok.ro21.orgの続編です。
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「残る」美術、「残さない」美術
Beuys

国立新美術館に行き「安斎重男の“私・写・録”1970-2006」という展覧会を見た。“私・写・録”とはパーソナル・フォト・アーカイブス=私的な関心から写した記録という意味をあらわしている。

安斎氏が1970年から現代美術の展覧会場や、作家を撮った約5000点の写真の中から、約3000点が展示されている。膨大な数の「現場」写真だ。写真展だが、写真によるドキュメンタリーを展示してあるといったほうが適切だろう。パーソナルであるため、安斎氏の個人的な関心が軸になっており、それにそって一年一年ページをめくるように、昨年までの記録を見る事ができる。

不整然にピンで貼りだされた沢山の写真をめぐりながら、1983年、自分は何才で、何をしていたのか?などと振り返ったり、自分も行った展覧会や見逃したものなど、記憶をたどりながらの観覧は楽しいものであった。また、図録には一枚一枚の写真に安斎氏のコメントが一、二行ではあるが添えられていて、楽しさを増幅させてくれた。図録見本が会場内のソファに置かれてあったので、座り込んでほとんどその場で読んでしまった。

3000点すべてを注意深く見たわけではないが、だいぶ目が疲れた。
すでに読んでしまった図録を出口で購入し、一階のカフェで腰を下ろし外を見ながら休んだ。
〔やはり、現代美術とは“行為”なんだあ〜〕という感想がわいて来た。
以前からそのように思っていたが、膨大な記録を見て、やはりと合点した。

“行為”は物として「残す」ことを意識しない、意図しない。それよりも現状に対してポジティブであることのほうが肝要ということだろう。結果的に美術館所蔵や個人蔵やらで「残る」ことになったとしても、それは制作時、発表時の前提条件ではないというものなのだ。現代美術の作品は数多くつくられ、発表されるが、数多く撤去、破棄される。であるからアーカイブでしか見れないものが多い。

また、「残さない」から、あるいは「残らない」から良いというものも多い。
例えば、建築を布で覆うクリストの作品なんかはそうだろう。
見慣れた建築や橋が大きな布ですっぽり覆われた姿を見た時の驚きはすごいに違いない。風にたなびく布がさぞかし美しいであろう。ただそれが「残される」ことになったら、どうであろう。日に炙られ、雨に濡れ、スモッグに汚れ…どう考えても美しくはない。一時であるから驚き、美しい。

面白い事に、私が美大を受験する頃の70年代には、大学案内の冒頭にはよく「人生は短し、されど芸術は長し」の文句が記されていた。永く「残る」物をつくれ、あるいは「残る」ものを創るべく、大学でしっかり学ぶべきだということが書かれていた。しかし実はその頃には「残す」ことを意識しない“現代美術”は始まっていたのだ。

消費社会が顕著になってくるのは、やはり70年代からだ。“もの”がつくられすぎ、あふれかえり始めた。人々の“もの”に対する意識も大きく変化した。“もの”は大量にコピーができ、入手も簡便となり、「長く大事」にから「買い替える」となった。「無ければ無いなりに知恵をしぼって…」ではなく、「買い占めてでも…」に変わった。“もの”は消費が終わればゴミとなる。
美術家のつくるものも、当然同じ“もの”としての一側面をもつ。作家の姿勢にも影を落としたろう。このことは美術のありかたにも大きな影響を及ぼしたのではないかと推理したくなる。

「残さない」美術は記録者、伝承者が関わり二次的、三次的な鑑賞をされうることもあると思えた。時を経て、ある作品が別の作家により再現されるということなども出てくるかもしれない。シェークスピアの芝居がいまでも再現されるように。何より記録媒体は写真ばかりでなく映像も十分ありえるし、公開の仕方もオンライン、オフライン引っ括め、そのスタイルは社会の変遷に合わせて、まだまだ色々でてきそうだ。

「残る」美術は従来通りどこかの所有、所蔵となり、機会に恵まれれば、鑑賞の対象となるのだが、どこの所有にも所蔵にもならなかった作品は、“もの”としての運命が待ち受けているわけだ。つまり「消費」が終わればゴミとなるのだが、「消費」を拒んで創られたものたちはどうなるのだろう?


kanazawa

画像は「安斎重男の“私・写・録”1970-2006 図録」
| 続/作品の行方 | 14:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
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