行方の行方

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流砂のような時間 映画『キャピタリズム』 
capitalizm

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映画館を出ると、新宿の夜空に雪が舞っていた。
今年は雪が多い。
映画はマイケル・ムーア監督の《キャピタリズム 〜マネーは踊る〜》見終わった後味は「面白さ」と「物憂さ」が入り交じった気分だった。
原題は《CAPITALISM: A LOVE STORY》で、どちらかというとこちらのほうがいい。
お金を愛して愛してやまない人たちの物語。

映画は楽しめた。描かれている事実は憤りこそすれ、「楽しむ」という語は妥当ではないのだろうが、不穏当にも面白くみてしまう。この辺りがこの監督の“戦略”でもあるのだろう。

フィルムの中での進行役は監督自身がしているので、インタビューを受ける相手も、ついこの監督のペースに引き込まれている。ウォール街の金融機関の玄関前で袋を片手に「私たちの金を返せ!!」というパフォーマンスも監督自身がやっているのだが、警備のおじさんも憎めない相手に心から怒れないといった感じだ。

結論も分かりやすい。
資本主義は元来悪いものではない。「強欲」が悪いのだ。
疑問はもっているのだろうが、資本主義への根本的な批判は無い。
「強欲」に走れないようなシステムにすべき、というものだ。

映画宣伝のために来日した監督はテレビ番組のインタビューにも愛想良く答えていた。
聞き手の質問。
「あなたは映画で資本主義を批判している。それは社会主義がいいということですか?」
何とお粗末な質問だろう。
そういう質問が多くて、ムーア監督も辟易してたようだ。

資本主義と社会主義は兄弟関係にある。資本主義が勃興することにより、社会主義(共産主義)が発明された。ムーア監督が「あの頃はよかった」と振り返る彼の幼い頃のアメリカ資本主義は、ソ連社会主義との冷戦初期で激しくつばぜり合いをくりひろげた頃だ。互いが反面教師となり、相手より優れた社会であることを競っていた。

資本主義があからさま強欲獣、居直り強盗となりさがったのは、ライバルがいなくなり緊張感がなくなったせいだ。
社会主義の崩壊は、資本主義の勝利ではなく、共に衰退したと考えるべきなのだ。
社会主義も資本主義も「食い尽くし型」「独占型」という点では、まったく同じで、この文明は曲がり角に来た、このスタンダードはもう限界に来たということなんだ。

映画は、そんなことまではもちろん言ってはいない。
その点が見終わって「物憂さ」を感じるところだ。
昨年だったか『There Will Be Blood』という映画を見たが、まったく同じような気分になった。ふたつの映画のスタイル、内容は当然違うのだが、流れている思想が似ている。『There Will Be Blood』もいい映画で、印象深いシーンも多い。ただ「物憂さ」が下っ腹あたりにどんより滞ってしまった。

それにしても、ムーア監督の手段、手法がうらやましくもある。
自らが生きている社会について、素直な疑問や批判をありのまま「作品化」するということだ。
彼が描こうと目論んだことを美術=アート作品にしようとしたらどうなるんだろう??

ブッシュを白雪姫に、ゴールドマンサックス出身の財務長官等を七人の小人として見立てて、大きな陶製のフィギュアでも作ろうか?世界地図の形をした芝生の上にでも置いたらイケテルかもしれない。

あるいは、原寸二倍の大きさのドルや円、元(ゲン)の模造札をたくさんつくり、それを素材に豪華な部屋、家具、調度品を作ろうか?観客のみなさんにそのリッチな部屋で紅茶など優雅に飲んでもらうのも良いかもしれない。
実際そんなようなアート作品もある。

埒も無い想像だ。
バカバカしい。
しかしそんなバカバカしいことくらいしか、いまはできる余地が残されていないのかもしれない…

彫刻は、自らが生きている社会のありのままを「作品化」するのはむずかしい。
映画とは違い、長い時間の鑑賞に耐え得るものにしようとする「性根」のせいでもあるし、「生態」そのものがそれに適さないとも言えるだろう。

彫刻はありのままから、何ものかを抽出し、それを木なり石なりブロンズに定着させようとする。時間軸を使って導いて行く表現ではなく、時間そのものを閉じ込める表現だからだ。
流れの速い流砂のような現代の時間から、何ものかを抽出するのは至難だ。

流砂のような時間にそうように、美術も「商品化」「情報化」してきている。
「更新」は当たり前だ。
歩みが遅かったものも、いまや速成へと追い込まれている。
抽出している間に、新たな美術商品、美術情報が、ディスプレーを飾り、瞬く間に更新されてゆく。
更新に次ぐ更新。
果てしもない。

流砂に押し流されないようにするには、どうしたら良いのか?
便器の中の排泄物のように、レバーひとつで、流されてしまわないようにするには、どうしたら良いのか?
答えは簡単らしい。
「有名」になればいい……
周りを見渡すと、こういう答えを持っている人たちばかりだ。
「有名」は正しく、「無名」は無価値。
無名は排除される運命にある。流される運命にある。
こういうことらしい。

『キャピタリズム』の中で、ムーア監督は言う。
アメリカ人の多くは貧困や差別の中でも、不公平であろうが理不尽であろうが、「サクセス」を夢見ることにより生き抜いて来た。そうアメリカン・ドリームというやつだ。
結果、素朴にサクセス・ストーリーを信じて来た大半の人たちは、ほんの一握りの「サクセス」した人々により、騙されやがて身ぐるみはがされ、家からたたき出されることとなった。

そういう意味で映画のサブタイトルは、「マネーは踊る」、「A LOVE STORY」より「流されてしまった人々」でも良かっただろう。


風景の箱

上の写真/映画『キャピタリズム』のパンフ
下の写真/作品『風景の箱』内部
| 映像の風景 | 17:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
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