行方の行方

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腰痛記 ”酔い”はモンスターをつくりだす
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朝、腰の痛みはまだ残っていたが、仕事には出かけて何とかこなして家に帰って来た。ソファに腰掛けてしばらく休んでいたが、痛みが段々ひどくなってきた。外はもう暗くなり始めている。病院に行くべきかどうかしばらく迷っていた。

座っていてもズキンズキンと痛い。寝るともっと痛くなりそうで、一旦横になったら起き上がれるかどうか不安だった。しばらく立ったまま新聞を読んだり、テレビを見ていたが、このままでは眠れない夜を過ごすはめになりそうなので、やはり病院に行くことにした。

数年前にも腰痛で診察を受けたことがあったが、ヘルニア等の病名がつくものではなかった。単なる『疲労性腰痛』。先生もはっきりしたことは言えないようだ。痛み止めの注射をうってもらい、鎮痛剤をもらい帰宅した。

ふーふー声を出しながら苦労して靴下を脱ぎ、なんとか着替えをすませると早々とベッドに横たわった。横になるのも一苦労だ。薬が効いているうちに寝てしまおうと、目をつぶりしばらくジッとしているが眠れない。寝返りをうちたいが腰を動かさないようにするのは不可能。そうこうするうち過去の腰痛歴のことが次と次と思い出されてきた。

二十数年前、子供達が元気に跳び箱を飛ぶのを見ていて、何となくやってみたくなり混じって跳んだ。馬鹿なことをした。着地と同時に、腰からバキっと音がして激痛が走りしばらく動けなくなった。帰路はやむなくタクシーに乗って帰ることになり、後部座席に寝ころばせてもらった。そのタクシーの運転手さんが腰痛持ちで、運転しながら腰痛についてのウンチクを熱く聞かせてくれた。

それからは、とにかく疲れがたまると腰痛が決まってやって来た。
次に腰痛に襲われたときには、ある人に整体を勧められて行ってみた。上半身をゆっくり回され、なすがままにされていると、突然ぎゅっとひねられ、ボキボキボキボキーッと雷が落ちたような音が背骨からしたのには肝を冷やした。その後も痛みが来るたび、整形外科にも、鍼灸にも行った。電気治療も受けた。二十数年の間に、嵐に巻き込まれるように何度か見舞われ,何度か治療を受けた。

ある時は、仰向けでもうつぶせでも痛くて横になれない、座る姿勢なら何とか痛みが少ないので、半月ほど毛布にくるまりイスで寝ていたこともあった。疲労で腰痛なのに、横になって眠れないため寝不足でなかなか回復せずに困った。あれは幾度目?何年前だったろうか…??
うつらうつらしながらも、当時の出来事が断片的に記憶の中で光を浴び浮かび上がって来た。

本当に忙しい時期だったが、不思議に煩雑で厄介だった実務のことはまったく思い出さない。脈絡無く当時出会った人達や話した時のことが浮かんできては消えた。めぐりめぐって眠りに落ちる直前はなぜか正岡子規のことを考えていた。

といっても、子規の何を知っているというわけではない。知っているのは司馬遼太郎の《坂の上の雲》と、漱石の書いた文の中に出てくる子規の姿だけだ。痛い痛いの連想から子規が浮かんだみたいだ。

《坂の上の雲》文中、病に冒された子規は本当に痛そうで痛そうで読んでいるこちらまで痛くなった。秋山兄弟の活躍、日清、日露、明治の日本をうまく表出した優れた小説で、そういう面で話題にされることも多いようだが、子規の痛さ、痛い子規の文学活動のくだりも、世間的にもう少し高く評価されていいのではないだろうか。

痛み、痛さを作品として、記憶として残しておくというのは重要なことだ。人は何でもすぐに忘れる。激痛さえも痛みがおさまれば忘れる。忘れるから前進もできるのだけれど、痛みを身体や心が発する「声」ととらえるなら、それを心に焼き付けておく何ものかが必要だ。

とにかく…朝が来て目が覚めた。
夜中に寝返りをうったのかどうか分からない。
寝床から這い出しテレビをつけソファーに座った。座れるようにはなったので、いくらかは回復したようだ。何とか仕事にでることはできそうだ。
テレビでは秋葉原連続殺傷事件の初公判について報じていた。

日曜の電気街の交差点、あれから600日も経ったのか…
追い込まれ、自らも追い込んだ犯人には、道行く人々の姿は自分と同じ多くの痛みを持って生きている存在には見えなかったに違いない。人も、看板も、店舗も、ビルも、ガードレールも、信号も、家族も、知人も、過去の出来事も何もかもが解け合い、自分以外は巨大な突撃すべきモンスターと見えていたのだろう。

身体性が必須な実社会は、その濃かった「つながり」がそこかしこで切断されるにいたり、あちらこちらで行き止まりになっている。
身体性なきネット世界の「つながり」は恐ろしいほどのスピードで拡張しているが、虚実はにわかに判断しがたい。
実生活とバーチャルの混淆はますます加速して行く。
ネットとバーチャル、これは乗り物酔いのような”酔い”がありそうだ。
”酔い”は時に、自身の網膜の中にモンスターをつくりだすようだ。

腰はまだ痛い…。


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腰痛の原因のひとつは長時間の運転のようだ。
運転席シートにこんなものを買ってみた。
ボディードクター バックアップ


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