行方の行方

このサイトは盧 興錫による『風景の行方、作品の行方』http://rofungsok.ro21.orgの続編です。
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「虚」と「実」
品川ビル

川崎から恵比寿に電車で向かう。
途中、品川駅を通る。
ちょうど昼時でもあるし、品川で降りて原美術館に行くことにした。

品川の駅前というか、駅横下には『なんつっ亭』というとんこつラーメン店がある。
原美術館の帰りには、いつも立寄り食べていく。
品川=原美術館+なんつっ亭 とセットになっている。

原美術館で何の展示をしていたのか、チェックはしたが忘れてしまっていた。
でも、この美術館の企画は大きな”はずれ”がないので、足が向く事が多い。
それに、この美術館自体の由縁、立地、建物は気分がいいもので、歩いていくだけでも損は無い。

品川は、ここのところ東海道新幹線の新玄関となり、海側には相も変わらずの高層ビルがどんどん建てられて、すっかり、やっぱり、しっかり鉄+ガラス+コンクリート巨壁群のモダン風景(そうそうまだまだ”モダン”の内なんですよ…)となってしまったが、山側には古金色の三菱開東閣が一段高く木々の中に鎮座しているという対照が面白い。

開東閣は三菱の創業者岩崎弥太郎の邸宅であり、原美術館も明治からの実業家原家の邸宅だったものだ。
高輪、白金とつづくこの一体は、江戸時代大名屋敷が並んでいた地で、明治以降の歴史的な建築も数多く残っている。山側には初期資本主義の風景が残り、海側には末期(…おそらく)資本主義の風景が拡がっているという構図だ。

渡辺仁設計の原美術館は初期モダニズム様式と言われているが、その建物の中でコンテンポラリーが展示されるというのも、時の層が感じられていいものだ。コンドル設計の開東閣は現在一般に非公開で三菱の内輪だけで使われているらしいが、有効土地利用などといって地上50階のホテルにしてしまおうなどという声もでてきそうだが、天下の三菱なのだから、東京中央郵便局のような高級トレンドスーツに祖父の草履をはかせるような再建築計画だけは勘弁してほしい。
「古色」というのは時がつくるもので、金ではつくれない。

いつもは帰りに立ち寄る「なんつっ亭」なのだが、朝からたくさん電車に乗って空腹だったので、改札をでるとフラフラと店内に吸い込まれてしまった。
相変わらずラーメンはうまかったのだが、どうも順番を変えたのが良くなかったようだ。
食後は神経がどんよりするようで、美術館に入っても頭がどんよりしている。
ビールもコーヒーも、そしてアートもやや空腹が丁度いいようだ。

ジム・ランビー というアーティスト
アンノウン・プレジャーズ というタイトルの展覧会
アンノウン・プレジャーズとは”未知の快楽”という意味だそうだ。
ところが、どうもどんより頭には、プレジャーズがいっこうにやってこない。
次に行くときには正しい順序で行こう。

どんより頭も恵比寿に着く頃には、すっかり晴れたようだった。
東京都写真美術館へ行った。
やなぎみわ ”マイ・グランドマザーズ”では間違いなくプレジャーズがやってきた。
「虚」と「実」が面白い。
そして「物語性」が面白い。
正順路で一度見て回ると逆順でまた見て回り、そしてひとつひとつを丹念に見た。

作家はモデルと話し合い、設定を決め、メークし、場所を選び、道具立てを準備し撮影している。実際に実物を写している。ところが真実ではない。画面に「嘘」がある。
アナログの人や景色を撮っているのだが、巧妙にデジタルで処理してあり虚を感じさせる。
「実」を撮って「虚」とさせるところが面白く、そしてその「虚」によって、「実」をより強く実感してしまう。

だいぶ前に”エレベーター・ガール”という作品も見たことがあるが、ガール達のありえない並びよう=「虚」が、女性のこの社会での扱われ方=「実」を、痛烈に、鮮明にそして不思議な甘美さで現していた。
この作家はフワリと立ち位置を変えているな。
いや、価値の軸を違うところに持っているな、という感じを持った。

先月、《美術は「在る」ことにこだわって数世紀を経た》と書いたが、
美術は、あるいは美術もと書くべきかもしれないが、「存在」ということに長くドロドロになって拘ってきたと直感的に思っている。
この作家は、その「虚」をもって、もうそのドロドロには軸を置いていないと感じさせるのだ。

私は、「存在」それは「近代」とも深いところでつながっていると疑っている。
同様に「物語性」は「近代」から疎まれ、「存在」から遠ざけられてきたとも思っている。
この作家の語らんとする「物語」自体にさほどの興味は無い。
それは私が「男」だからかもしれないし、「近代人」だからかもしれない。
おそらくその両方だろう。
ただ、この作家が邪険にされてきた「物語性」を何事もなかったようにスルリと扱い、観るものを楽しませてくれているのは頼もしい。

東京都写真美術館は恵比寿ガーデンプレイスという複合ビル内にある。
ここは昔、サッポロビールの工場だったところだ。鉄道を使って材料の搬入やビールの出荷をしていた。貨物列車がたくさん並んでいたのを、線路の向こう側からよく見た。
悪くない風景だった。


ビル夜





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