行方の行方

このサイトは盧 興錫による『風景の行方、作品の行方』http://rofungsok.ro21.orgの続編です。
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呼吸音はよく聞こえてくる
tokorozawa

暗い車庫内に幾本かの線路が引き込まれている写真。
その黒い写真を背景に「引込線」という白い文字が大きく刷られている。
駅に貼られていたなかなかイイ感じのポスターだ。
「所沢ビエンナーレ・プレ美術展」を知らせるもので、出品作家には知己の名前もでている。ポスターにまさしく引き込まれ、立ち寄ってみた。

展示会場となった工場の建物は、写真のような大きな空間だ。ただ線路はなかった。
建物はかなり古く、床のコンクリートは平坦ではあるが、少し気を使い歩く。
中はかなり蒸し暑い。
周囲の壁面も一様ではなく場所により違った造作だ。
採光は入り口のあたりがかなり明るく、奥にいくにしたがって暗い。
内部にあった物入れやパレットを隅に移動し並べたり積み上げたりして、会場にしつらえたものだ。

こういう会場での展示、作品が見やすいかと言えば、やはり見にくい。
作品以外のものに目が行きがちだ。
ただ不思議な事に作家たちの呼吸音はよく聞こえてくる。
”ライブ感”とでも言ったらいいのだろうか、歌手が舞台ではなく、目の前で歌っているといった感じだ。作家、作品が近く感じる。

だいぶ前から、いわゆる美術館展示室、ギャラリーは基本的にホワイトキューブになった。作品以外には神経が向かないようにしつらえてあるし、照明の使い方などで作品の表情が変わってしまったりするほどデリケートで、展示に特化してある。
作家にとっては申し分ないのだが、独尊的である分、「隔離されている」「孤絶している」といった感情の矛盾に陥ったりもする。

展示条件が悪いというデメリットは留保し、「見せる→」「←見る」という本来的な意味を積極的にとらえオルタナティブな可能性を探っていく事は、これからますます重要な事柄になっていくだろう。作家側にとってはもちろんのこと、見る側にとってもだ。
知己の作家の作品を、約束された空間で、約束したように見に行くのは正直のところ少々退屈なものだ。駅で見かけたポスターにつられ行ってみて、約束されていない空間に「挑戦」的に展示されていたというのも、悪くない出会いだ。

アート/美術と呼ぶもの、呼ばれるものは枝葉が好き勝手に伸びきるように多様化した。奔放に生い茂ったそれらは、個に専心し、他との関係、他への関心をかたくなに拒絶しているように見受けられる。それはあるがままに受け取るしかないものだが、ただ、この状況が「いま」を一番良く映しだしているとは思う。

アート/美術のことに限らず、社会全般に「いま」隔絶化、断片化が進んでいる。そこかしこで孤絶な個がひしめいている。『関係ない!』は世の隅々に浸透し、他との関係性の中に自らをおいてみるという能力を失いつつある。
やがて、すべてのものが精神性において他との関係性をもたない孤立した存在となってしまうかのような暗い想像さえしてしまう。

文化は社会の「ゆがみ」や「ひずみ」に対して敏感で、修復能力をもつものだが、文化そのものが硬直化し、断片化、排他化、特権化すれば、当然その能力は失われる。「いま」はその逆方向のムーブメントこそ必要とされているし、そういう試行も各所で行なわれている。「引込線」もそのひとつであろうと受け取ったが、作家と批評家がベースとなるのは新しいし期待したい点だ。

所沢市は人口34万で世代間の人口数格差が少ない若い街だ。東京のベッドタウンではあるが、この十年間で”郊外生活型”とも呼べる型ができつつあり、都内とも周辺田園都市とも違った様相を見せ始めている。ギャラリーと呼べるのは市の持つ複合文化施設内にあるのみで、まだ美術とは縁の薄いところだが、縁の薄い分、新天地とも言える。新天地で新たな試みがなされるのはとても意義深い。

工場の会場をあとにしつつ、ふとニューヨーク郊外のDIAビーコンを思い出した。元ナビスコの工場を美術館にしたところだ。

所沢だけではなくアートプロジェクト全般の実施、実行の、キーとなっていくのは、作家ー作品ー批評ー観客ー支持ー支援を織り上げていく「編集力」だろう。その辺のことも含めて今後を見守っていきたい。



所沢ビエンナーレ・引込線
http://tokorozawa-biennial.com






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